私の一番好きな作家さんが川上弘美さんです。ストーリーも文体も扱うテーマもとても興味深く読んでいて飽きることがありません。小説だけで無くエッセイや書評でもその優れた文章には惚れ惚れしてしまいます。ここではちょっとだけ川上弘美さんについて書きたいと思います。


2008年11月28日

どこから行っても遠い町

どこから行っても遠い町

先日、川上弘美さんの新刊「どこから行っても遠い町」が刊行された。新潮、yomyomに連載された連作短編をまとめたものである。一作一作は独立しているもののお互いの物語が違う物語へと発展していく様は「ニシノくん」でも試されていたがやはり実験的でもあり非常に興味深い。

しかしここで描かれた話の素晴らしい事はまったくもって言葉にすることが出来ない。それぞれの物語にあるのは日常である。ごくごく一般的な日常と言って差支えが無いだろう。しかしその日常がほんの少し刻まれて非日常がチラっと顔を出す瞬間がある。それがこの物語のズレとなり読んでる私のズレとなっていく。その違和感こそが近年の川上作品の特徴であろう。

この本の中では劇的なことは何一つ起こらない。全てが淡々と進みズレ自体も物語の展開に役立つことは無いがそのズレに飲み込まれていくような感覚なのだ。

こんな話を書ける人が他にいるだろうか?単にホレタハレタなんて書く作家は山のようにいる。過剰なまでに物語を詰め込む作家も同様だ。しかし淡々としながらも物語にズレを生じさせ小さな亀裂を埋め込みながら切り込んでいく様な作家はほとんどいないだろう。

先日まで「真鶴」を繰り返し読みそこに川上さんの集大成と新しい道筋を見出していた。「真鶴」も今後を左右するような傑作である、しかしそこには心血を注いだという証のようなものが刻まれている。生も根も使い果たしたという雰囲気である。それに対してこの連作短編はもっと軽やかでありながら「真鶴」に匹敵すズレが見事に描かれているではないか。

以前にも書いたが川上さんにとってはひとつの話をじっくりと描く長編よりも様々な要因が表れては消え、消えては表れるそんな短編こそ一番魅力的だろうと感じている。そしてその短編もまた複数の顔を持つが今回のような作品集を出されてしまうと本当にまいってしまうしかない。

この作品はズレを楽しめるか、言葉を楽しめるか、行間を楽しめるか、そして何より自分の日常を楽しめるかが問われている。過剰さを求めるような人にはまったく向かないが立ち入ればただでは済まない世界がそこにあるのだ。


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2008年10月25日

真鶴を歩く

川上弘美さんの傑作「真鶴」はこの真鶴が重要な舞台の一部となっている。私もそこに書かれた足跡を辿ってみたいと思っていたがなかなか叶わずにいた。しかし小田原での用事があったのでそれではと真鶴まで足を延ばした次第である。

真鶴は半島になっていて舞台の多くはそこで進められる。
JR真鶴駅
JR真鶴駅

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駅周辺には何度も出てくる周遊バス乗場、タクシー乗場、観光案内がある。

岬の突端にはケープ真鶴というお土産屋さんなどが入った二階建ての建物がある。この建物こそ劇中に出てくる崩れてしまう白い建物そのものである。

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何度か出てくる突端のバスロータリー

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ケープ真鶴の先には劇中でも触れられている与謝野晶子の石碑がある。

真鶴岬の先、京が「龍の首先のような形でひげもある」と触れられているがこれは三ツ石と呼ばれている部分であり、ついてきた女と歩いてく場面にも描かれている。

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岬の突端と三ツ石

海岸線は簡単に歩けるようになっている。ここもついてきた女と歩く場面で出てきている。

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海岸線の遊歩道

劇中で触れられている祭りは貴船まつりと呼ばれているものであり半島内にある大きな神社、貴船神社で執り行われているものである。この祭りは毎年7月27、28日に行われている。
http://www.town-manazuru.jp/data/kankou/k-mat.htm

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神社本殿と祭りの様子

真鶴には「お林」と呼ばれる原生林の森がある。劇中でも京と女が歩いたりバスに乗ったりして何度か登場している。非常にうっそうとしたところであり一方通行になっている。そのため「行きと帰りは違う道」と書かれている。
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お林と古い社

町内の図書館にも寄ってきた。挿入された逸話の中に何かしらヒントになるものは無いかと探したが時間がなくそこまで調べることは出来なかった。特に吊るされて死んだ女の話などは何か元になる話はあるのではなかろうか、それはこれから調べてみたい課題のひとつである。

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真鶴の図書館に展示された「真鶴」

また図書館には「真鶴」執筆の際に参考にされた「真鶴町史」も置かれていた。もしかしたらこの本は川上さん本人が読まれていたものかもしれない。

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真鶴町史

たった半日、しかも時折強い雨が降る中で歩いたためまだまだ見足りない部分も多々ある。次回はこの祭りに合わせて出かけてみたいものだと思っている。

帰宅してからもう一度「真鶴」を読み返したがその内容には圧倒されるばかりである。現地を見てきたという事もあるがそれ以上にそこに込められた力というものは想像を絶する。川上さんご本人も相当苦労して生み出された作品と聞いているが正に納得するものだ。

  
タグ:真鶴
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2008年10月09日

情報を少々

すっかり放置してる。
まったくもってファン失格であろうか。アクセスされた方、コメント頂いた方にはまったくもって非礼の数々、平にご了承いただきたい。

ここ最近は時間が無くなかなか川上弘美さんの作品を読めていない。幸いというか残念というかしばらくは新刊も出ておらず旧作を開いては行間をぼんやりとながめる始末。情報を集めようにも意外と川上さんの事を話題にしているところは少なく少々残念でもある。

mixiでの情報によればお茶の水女子大学の学園祭においでになるとのこと。しかし残念ながら私はその日どうしても外せぬ用事があるため今回もそのご尊顔を拝する事が出来ずにいる。まったくもってタイミングが悪いでは無いか。

詳細は学園祭のHPからたどれる。
http://www.geocities.jp/kifc_2008/

また私の大好きな「東京日記」はweb版となって公開されている。
http://blog.heibonsha.co.jp/blog/tokyo/

ついでに今月末には小田原、箱根へ出張がある、用事が済んだ後はぜひ足を伸ばして真鶴まで行ってみたいと思う。




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2008年05月14日

asahi.comに川上弘美さんのインタビュー記事

asahi.comに川上弘美さんのインタビュー記事が出ている。

asahi.com:川上さんが新刊「風花」 主婦の迷い・成長細やかに

「風花」のインタビューということであるが劇中の人物たちの人間関係を描いたという部分が興味深い。

また最後にカタカナについての記述が出ている、やはり皆その変化を気にしているのだろう。匿名の世界から実世界へ、そんな感じだろうか。
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2008年04月18日

どこから行っても遠い町

yomyomのvol.6に収録された「どこから行っても遠い町」という作品を読んだ。ある男の独白を描いた作品であり結婚とは何かと問うような問わないような、そういうあやふやな川上節が読める。

私は「冬一日」という作品が好きであるがこれはその続編とも読み替える事が出来るではないか。確かに不倫という形を扱っているがそれぞれが知らず知らずに相手の重みになってしまうという状況を上手く描いている。

川上さんの作品では無いが、ある作家の話に内なるプレッシャーというものをテーマにした話があった。負担になってなくとも無意識にプレッシャーを与えたり受けたりするという話であった。今回の川上さんの作品にもそれが如実に表れている。そしてそれにはっきりと気がついてしまった男の話なのだ。

恋愛というものは多くのものを犠牲にした上に成り立つものである。だから決して素晴らしいものではなくむしろ独占欲と自己中心的なものの塊なのだ。それを劇的に描こうが淡々と描こうがそれは作者の自由であり受け手の自由である。

川上さんはそれを淡々と描いた。因果でもない、道徳でもない、倫理でもない、本能でもない。あらゆるものから切り離された達観と言えばいいのだろうか。それこそ川上さんが川上さんらしさを失わない語り口なのだ。何度も噛み締めて読むこの話はやはり素晴らしい。
タグ:yomyom
posted by 網加 at 20:19| Comment(0) | TrackBack(0) | どこから行っても遠い町 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする